聞きたくないと耳を塞いで




 実を言えば、数日前から頭痛がしていた。
 授業中も黒板のコツコツカツカツと言う音が耳障りで。
 保健室に行けば、完全に閉まっていない蛇口から漏れる水音が、ピチャッピチャッと、これはまた脳髄に苛々という刺激を与えてくる。
 家に帰っても、居間の柱時計は、チクタクチクタクとその存在を大いにアピールしている。
 誰かに見られているような気がしたのも、ちょうどその頃からで。
 その視線はまるで音のように、私に少しずつ迫って来たのだ。
 一番初めは恐らく、数百メートル先からの視線、気付くか気付かないか、その程度。段々と近づいてくるその視線は、もはや暴力的と言えるレベルで私に迫り、突き刺さる、グサリと言う音が響くかのように。

 季節も丁度、夏の終わり。ゆとり教育の反動か二期制だか知らないが、八月の終わりに制服を着ることそのものがまるで、罰のようだ。
 未だ残るジメジメとした湿度はセーラー服以上に私を拘束し、そこに仕上げにセーラーカラーで鍵をかける。ミンミンとジジジと言う蝉の声と羽音も聞こえる青空の下、わざわざ走ることしないけれど、風でセーラーカラーが翻る。さすがに秋も近いのだと分かる。
 鞄にはキーホルダーを付けない。あのガチャガチャとした音が耳障りだ。
 携帯のストラップも同じく。
 
 皆、どこかダルそうに学校への道を歩く。
 「おはよう」と声をかけられても、頷き返すことが精一杯。その動作もどこか重い。
 もはや、言葉を交わすことも、億劫になってしまっている、うすら寒い夏休みを過ごした反動。
 

 担任の様子も結局、同じで。
 保健室の先生もそう。
 まあ、この時期から熱い態度で仕事の挑まれても正直、困る。
 藁半紙を数える微かな音や、印刷したての紙とインクの匂いも、ノスタルジーと言えば良い響きだけど、やっぱり私は好きじゃないので。
 ガタガタと安定しない机に苛々を募らせながら、貰った進路調査書の空欄を塗りつぶす。
 一番適当だと思って出した、油性マジックの臭いとあとキュキュッと言う独特の音のせいで、結局保健室送りになってここにいるわけだが、どうしてそんなことをしたの?と厚化粧の上の胡散臭い笑顔で聞かれても、同じようにわざとらしい笑顔で応対するしかないじゃないかと思うのは、きっと私だけじゃない。

 せっかく塗りつぶした紙は取り上げられ、真っ白なプリントを渡され、家路に着く。
 さすがに反抗的だったかなと、平穏を望む私としては今日を反省し、先生の言葉を思い返す。
「ご両親と一度、ゆっくりお話してみなさい」
 それは面白い。
 さぞかし、ゆっくり、自分のペースで話すことができるだろう。
 ガチャガチャと鍵を開け、そして扉を開ける。





「ただいま」
 私はこれからゆっくりこれからのことを話し合う。
 耳障りな音を立てることをしない、物分りの良い両親と。





「ただいまー」
 鍵はかかっていなかったので、ゆっくりと扉を開けた。
「…」
 目の前には仁王立ちの母。
「あんたね、新学期早々、担任から電話ってどういうことなのよ」
 担任は、私が思った以上に熱かったようで。
「一昔前じゃないんだから、物事何でも『不条理』とか言っても、流行んないわよ?」
 母もまた、意外と冷静である。
 こうして、結局、私の平穏で静かな日常は…理想だけで終わるのだ。




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言い訳。
うっすらと、じんねりとした話が書きたかったのです。
結構、難しいものだなーと思うものの、形式は嫌いじゃない。
こうして見ると、私の書くものは核はホラーなんじゃないかとたまに思ったりする。





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