届かない声と贈る旋律2
------何かをなくしてしまった町の話。
たくさんの花とたくさんの緑、たくさんの笑顔がそこにはあった。
決して豊かな国ではないけれど、そこには豊かな笑顔があったのだ。
彼らは忘れない。戦車がやって来た日を。
彼らは忘れない、父や母や家族を奪われた日のことを。
そんな駄目になってしまった町の話。
そこは本当に小さな町。
ある人が言うには、
「何があるわけはもないけれど、平和と笑顔がウチの売りですから。」
きっとそんな町。
戦争が始まったのは5年前。
その町がどこかへ攻め込まれたわけでも、攻め込んだわけでもなかった。
「隣の国が、本国に攻め込んだらしい…」
「違うだろ、本当は本国が領土拡大のためにって話だよ」
「ええ!?でも新聞じゃあ・・・」
「そりゃあ、領主さまが侵略を認めるはずがないだろう」
飛び交う噂。でも、人々はまだ心配なんてしていなかった。
だって。
ここは安全な町だから。戦いなんて起きたこともない。
平和の象徴。
町の若い男たちに対し、徴兵令が出たのはそれから10日後のことだった。
返してほしいのは温もりと。
大切な思い出。
色とりどりの花、笑顔、優しい涙。
もう、取り戻せないかもしれない。大切な宝物。
何が悪かったのだろう――おそらくは何も知ろうとしなかった無知。
町から青年たちがいなくなって、それでも町は不安にもならなかった。
だって、本国にお仕事に行っただけだから。
すぐに戻ってくるわよと。
そう信じる無知は責められるものなのか。
国に逆らうことで今、どうなっていたか。
そんなことは誰にもわからない。
唯一つある事実。この町に、本来の籍を置く青年は一人もいない。
それは確かなこと。
なくしたものは若い命か。
残された者たちの心の空虚か。
奪われた笑顔と、その聞こえない悲鳴だけがそれを知っている。
|