届かない声と贈る旋律
------ある何も持たない詩歌いの恋の歌。
一つの街に一人の吟遊詩人。
歌うことが大好きで、お金も拍手も貰える保証はないのに、
彼は笑顔で歌い続ける。
「僕の心に羽を生やし
飛んで行けたらいいのに 君の元へ
でも忘れないで 僕らは足を持つ人だということ
人は地に 鳥は空に帰っていくこと・・・」
雨の日も風の日も彼は歌い続ける。
ある一人の少女に届くように・・・
「毎日が過ぎてく中で 僕たちは本物を探してる
それが何なのか知るものはいないだろう
僕の声は過去という闇の中に向かっていく
それでも聞いて、聞いてください・・・」
彼の声は彼女には届かない。否、誰の声も届かないのだ。
戦争で両親を失った少女、戦いを憎み、全てを閉ざした。
自ら耳をふさぎ、口をも閉ざす。
その顔に笑顔はない。
「正義なんて言葉にごまかされないで
本当に正しいことはだれにもわからない
君の悲しみは僕の痛み
今 ここにいる僕に気付いてください・・・」
かつて花のように笑っていた少女。彼女から花を奪ったのは闇。
戦争という闇。奪われた命。広がる深い暗い海。
「君が笑わないのなら 僕が笑おう
君がいつでも笑えるように・・・」
僕から君に一つの愛を送ろう
形にならない 記録に残らない
それでも確かな愛
この旋律(メロディー)を君に送ろう
それが僕にできることのすべて
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