焔と煙と静寂と―サティから着想した戯曲的小品


【 吼えてみようか a 】

   何もない薄暗い空間。
   中央に2箇所、ぼんやりとしたスポット。
   女が2人。真っ直ぐ、けれどぼんやりと立っている。
   とりとめもなく始まる会話。
  
女1「ねぇ、聞いた?」
女2「何を?」
女1「噂よ、う・わ・さ」
女2「うわさ?」

    風が通ったのだろうか。スポットが微かな点滅。

女1「あら、知らないの?」
女2「・・・そうね、知らないみたい」
女1「教えてあげましょうか」
女2「・・・そうね、どうしようかしら」
女1「知りたくないの?」
女2「とても知りたいわ」
女1「だから教えてあげるわよ」

    風が吹いたのだろうか。揺らぐスポット。

女2「どう・・・」
女1「鳥かしらね」
女2「とり・・は好きだわ。動物は好き」
女1「嫌いなものがあるのね」
女2「人間、人はいやだわ」
女1「自分も?」
女2「私、人かしら。人になるのかしら、あいつは人、なのよね。じゃあ私、人でいたくないわ」
女1「人も動物じゃない」
女2「昔の話でしょ」
女1「あら、今も動物よ。だからほら、泣くし、怒るし、吼えたくなることだってあるじゃない」
女2「吼えるの?」
女1「吼えるわよ」
女2「本当に?」
女1「そうよ、昔は吼えていたのよ、私たち」
女2「大昔にね」
女1「思い出せない?」
女2「何を」
女1「だから吼え方」
女2「・・・そうね、忘れてしまったのかも」
女1「人は忘れてしまうのかもしれないわね」

    暗転



【 センチメンタル・エゴイスト 】

   明転
   中央には山台。スクリーン、風の効果。
   男が二人。
   一人は山台の上の隅に。もう一人は台の脇に立つ。
   二人とも真っ直ぐ前を向いている。
   
男1「心臓がドキドキする」
男2「ビビってるんだろ」
男1「落ちたら、死ぬかな」
男2「さぁな」
男1「3階建ての校舎ってのがまた微妙だもんね」
男2「って言うか、地面植木とかあるし」

   台の上の男1、一瞬だけ男2に顔を向ける。
   風の効果、止む。

男1「・・・じゃあ、試してみよっか」
男2「やめろ」

   男2、男1の腕をつかむ。

男1「どうして?」
男2「死ぬかもしれないだろ?」
男1「そうだね」
男2「だから止めろ」
男1「だからどうして?」
男2「嫌なんだ・・・俺が」
男1「何が」
男2「お前が死ぬのも怪我するのも」

   男1、男2に身体を向ける。

男1「・・・俺は嫌じゃないよ?」
男2「関係ないよ。俺が嫌なんだから」
男1「勝手だね」
男2「そうかもな」
男1「うん・・・勝手だよ」
男2「ああ、これは俺のわがままだ」
男1「何だよ、それ。結局できないってことかよ」
男2「どうしても試したいなら俺が飛び降りる」
男1「駄目だ!」
男2「どうして」
男1「・・・俺が嫌だから」

   スクリーン、風の効果。

男2「・・・勝手だな」
男1「・・・俺のわがままだね」

   暗転



【 ふやけた胎児 】

   波の音。ほの暗い照明。

女3「生まれてきた時のことを覚えている?」
男3「いや・・・」
女3「私ははっきりと覚えているわ」
男3「生まれた瞬間から?」
女3「いいえ、この世という外側に出てくる前、母なる海、羊水での日々も」

   照明落ちる。スポットライト。

男3「潮が満ち、僕たちは生まれ落ちる」
女3「ちゃぷーん、ちゃぷーん」
男3「母なる海、羊水。母なる人の壮大な海にただようのは、これから生れ落ちるひと」
女3「ただよう、ただ酔う」
男3「覚えているのはそれだけ」
女3「母なる海、羊水。母なる海という世界」
男3「漂う海は広く感じた。しかし、所詮は母なる人の海。世界と比べれば、ただちっぽけな世界」
女3「この羊水・・・この世、うすいせかい・・・」

   スポット切る。照明戻る。

男3「・・・目覚めたのは広い世界?」
女3「そう、そして乾くの」
男3「乾く」
女3「世界は干からびていて、私は息をするのも困難だわ」
男3「ずっと羊水に浸かっていたから」
女3「そうかもしれない。でも、ここは本当に乾くわ」
男3「・・・安寧な海。母という檻に浸り、渇きを忘れ、息のことなど意識することもなく・・・」
女3「だから時々懐かしい、あの羊水の日々」

   暗転
 
 
 
【 はた迷惑な微罪 】

   黄昏時。喧騒の中。
   立ち止まる少女と少年。

少女1「どこで間違えたんだろう」
少年1「仕方なかったんだよ」

   ミャーオ。

少女1「きっとどこかで間違えたのよ」
少年1「・・・もう、気にするなよ」

   ミャーオ。

少女1「どうして?」
少年1「気にしたって、生き返るわけじゃないんだしさ」
少女1「私が死んだらもう、気にしないの?」
少年1「何言ってるんだよ。そんなわけないだろ」
少女1「同じことだよ。ミケが死んだら悲しい。だから気にするんだよ」
少年1「それはそうだけど、でも・・・」
少女1「ミケが好きだから。だから悲しむの。同情するの。本当はミケの痛みも代わってあげたいのに」
少年1「それは駄目だ」

   ミャーオ。

少女1「ミケが死んで悲しくないの!」
少年1「お前が悲しい方が俺は悲しい!」

   ミャーオ。

少女1「私が悲しいと悲しくなるの?」
少年1「そうだよ」
少女1「・・・どうして?」
少年1「ミケが痛いとお前も痛いんだろ、同じじゃんか」

   ミャーオ。

少女1「ごめんね、ミケ」

   ミャーオ。
   少女1去る。

少年1「バイバイ、ミケ。もういらないよお前」

   ミャーオ。
   暗転



【 愉快なノイズ 】

   明転
   舞台には机と電話。
   少女3が電話を取る。
   プルルルル・・・プルルルル・・・

少女2「もしもし、もしもーし」
男3「電話、出ないの?」
少女2「うん」
男3「またかけなおせばいいよ」

   少女、再度電話のボタンを押す。
   プルルルル・・・プルルルル・・・

少女2「もしもし、もしもし・・・」
男3「(少女から電話を取って)ああ、圏外だよ」
少女2「そうだよ」
男3「うん?」
少女2「あのひとは圏外にいるの」

   暗転



【 吼えてみようか b 】

   明転
   薄暗い中で、女二人にスポット。

女1「ねえ、どうする?」
女2「何が?」
女1「だから、噂よ」
女2「ああ・・・うわさね」
女1「どう、聞く?」
女2「そうね・・・」
女1「じゃあ・・・」
女2「やっぱりいいわ」
女1「どうして?」
女2「知りたいから」
女1「え」
女2「とても知りたいって思うから知らないでいることにするのよ」
女1「・・・なあに、それ」
女2「だから、本当に本当にほんとうに知りたくなったら・・・」
女1「なったら?」
女2「吼えてみるわ、私」
女1「・・・まぁ」
女2「素敵でしょ?」
女1「ホント、素敵ね」
女2「だから今は人間の人の噂は止めておくわ」
女1「わかった」
女2「ありがとう」
女1「ううん。ねぇ」
女2「うん?」
女1「もしね?」
女2「うん」
女1「もし吼えたくなったら言ってね:」
女2「・・・どうして?」
女1「一緒に吼えられると思うの」
女2「本当?」
女1「ええ、素敵でしょ?」
女2「ホント、素敵ね」
女1「ね。約束」
女2「ええ、約束」

   指きりをする二人。
   微笑み合い、別れる。
   女2、舞台を去り、女1のみが残る。

女1「噂はもうかなり広まっているの。知らないのはきっと彼女だけ・・・ううん、本当は彼女も知ってるのよ。だって彼女の噂ですもの。最近ね、あの家、旦那さん全く見かけないのよ。別居・・・かしらって噂よ。でも、知ってるのよ私。旦那さん、別居も何も、家に戻ってからは一度も外に出てないの、家の中で何してるのかしら。ねぇ?」


   女1、舞台の脇にあった電話を取る。
   プルルルル・・・プルルルル・・・

女1「もしもし?噂、知ってる?・・・知らないの?駄目よ、これは押さえとかなきゃ。ねぇ、知りたい?教えてあげましょうか」

   女に当たるスポット、徐々に絞る。
   暗転


                                                  FIN.

*【吼えてみようか a】は劇団LABO!の公演「pp」(太田省吾脚本「裸足のフーガ」)から着想を得ました。




あとがきにかえて。
物凄く様式にこだわり、自分の趣味を盛りだくさんに入れた作品。
これを演劇として上演したいとか…思ってるわけではないのです。

ただ、とにかく1対1の状況、それを描きたかった。
物語や、人間と人間とのかかわりって結局それが全てではないでしょうか。
最終的には1対1。

登場人物も1人か2人で良いのかもしれません。

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