秋色スウィイト
ロゼットがシスターケイトの大事な書類にシチューをかけた。
あまりによくやることで、もはや何も言う気にもなれず、僕らは半ば自動的に教会の庭掃除に追いやられた。外の空気はやや冷たく、肌がピリピリする、そんな季節。
「はぁぁぁ。面倒臭いなあ。もう、止めない?」
本日、5回目のロゼットの溜め息。しかも今度は座り込み付き。
「・・・5回目。」
僕は振り向きもせずにロゼットの言葉を軽く流し、何事もなかったかのようにほうきを動かし続ける。
「むぅ・・・。」
だいたい、5分も経たないうちから、サボろうとするロゼットの言うことを一々聞いていられるはずもない。実際、文句を言っても今さらサボりようがないし、ロゼットは限界みたいだけど、もう終わりに近い。この季節、葉が落ちてくるのを止める術はなく、完璧にするには冬まで待たなくてはいけない。ある程度の目処が立てば終わりにしていいはずだから、あと30分もかからないだろう。
僕の無視に懲りたのか、スックと立ち上がる音と共にほうきが落ち葉を掃くテンポの良い音が聞こえる。これで今日の夕食は一安心だ。
ザッザッザッ・・・。
「ロゼット・・?」
5回目の溜め息から10分ぐらいでのことだった。2人とも何も言わず、黙々と掃除をしていたはずで、明らかに気配が遠のくまで、僕は振り返ることをしなかった。パッと振り向いた時には既に遅く、見えるのは彼女の後姿、そして物凄いスピードで集められた落ち葉の山。駆けて行く彼女の足に新たに落ちる葉は次々に踏みしめられる。――それはとても鮮やかな光景。でも、サボるにはちょっと大胆すぎる行動だ。あまりの行動に僕は追いかけることもできない。
ロゼットはいつもそうやって僕の前を行く。――振り返らずに。
沸き起こった胸の痛みをごまかすため、再び僕は落ち葉に向かう。単調だが、何か他のことをしていないと、自分がここにいる理由を見失ってしまいそうだった。
2人で旅を始めたばかりの頃にもあったことだ。
何日も食事をしていなかった。まだ僕らは旅の仕方も目的を探す方法もわからない、牧師に助けられる前のこと。あの時はまだ、かろうじて僕はロゼットの腕を引き、前を歩いていた。僕が導かなくてはいけないと思ったのだ。僕が彼女を連れて行かなければならないのだと、そう・・・思っていた。
「クロノ・・。ちょっと待ってて!」
何かを見つけたのか急にそう言うと、ロゼットは駆け出していた。2人ともすでに体力は限界で足取りはかなり重かった・・・はずである。どこに駆け出す力があったと言うのだろう。
僕は不安になった。契約をしたのは確かに間違えがない。それでも不安だった。
―このまま戻って来ないんじゃないだろうか。
そう、考えてしまったのだ。僕の視界は真っ暗になった。手は冷たくなり、足が錘のように感じられた。ロゼット、ロゼット、ロゼット・・・・。
「・・・ロノッ!クロノ!」
「あ・・・」
ロゼットだった。
ロゼットがクロノから離れたのは結局、5分にも満たなかった。今、思うと笑ってしまう。それでも、あの時の自分にはその5分が永遠のように感じられたのだ。
「しかもあの時は確か・・・」
ドサドサドサッ!!
しんみりと感傷に浸っていたのが台無しだ。浸っていた原因もぶち壊す原因も同じであることはわかっていたが、ここまで自分の心境を無視されると、頭痛で涙が出そうだ。だけど、そんな彼女だから。そんなロゼットだから僕は今、ここにいる。それが分かっているから、ちょっと悔しかったりもするのだが、僕は身体を巨大な音を出した方へと向ける。
「焼き芋しよう、クロノ!」
満面の笑み。僕と一緒に行こうといった。一緒に進もうといったその笑顔。
「はは。・・・焼き・・芋か。」
あの時も焼き芋だった。あの時もロゼットは、クロノはただロゼットが側にいてくれることだけを考えていたのに、数十m先の屋台に気付き、走って行ったのだ。
「何よ。焼きたてのさつまいもは甘くて美味しいんだからね!」
全く、君には叶わない。
いつも先へ駆けていく君。
不安になることもあるけれど、君が戻ってくるのなら、僕はここにいよう。
君に僕の居場所があるなら、僕は君の場所を作ろう。
―ロゼットとクロノが美味しく焼き芋を食べている、ちょうど同じ頃。
「ヨシュア様、どうぞ。」
「うん、フィオレはスイートポテトも絶品だね。美味しいよ。」
そんなこともある秋の日。
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